【実務翻訳】生成AIを活用してイチから翻訳を得るときの注意点とプロンプト案

ツールを使う力

実務翻訳者が生成AIサービス(ChatGPT、Copilotなど)を活用してイチから翻訳を得る際の注意点とプロンプトの案を記しておく。

現状、生成AIサイト上で翻訳対象の原文を貼り「この英語を日本語にして」と質問するだけではそのまま現場で使えるような日本語訳が得られないことが多い。

よって、今後のために生成AIによる翻訳の精度を上げるプロンプトを考えてみたい。もちろん情報漏洩のリスクについても考慮する。

本記事の内容に関する注記
・2026年1月時点のデータ。
・主に、最下部に掲載した参考書籍の情報を根拠に本記事を作成している。
・執筆者は生成AIの専門家ではない。
・実務翻訳のなかでも英日翻訳の生成を想定している。

生成AIを活用して翻訳を得るときの注意点

生成AIの弱点は次の3つに大別できる。この弱点を補う、または回避するような形で生成AIを活用する必要がある。

生成AIの主な弱点

1.知らないとうまく答えられない(ハルシネーション)
2.情報漏洩のリスクがある
3.指示がうまくないとズレた回答をする

ハルシネーションの問題については、重要な情報は人間が確認することで解決できる。また、システムメッセージ(生成AIの全体的な応答様式を定める指示)の設定やRAG(知らないことを調べてから回答する技術)、今後の生成AI自体の発展によっても、ハルシネーションの頻度は下がっていく模様。(ハルシネーションが根本的に解決されない限り実務翻訳者の仕事は完全になくなりはしないだろう)。

情報漏洩のリスクに対してはオプトアウトやオンプレミスによるAIの運用が効果的とされているが、個人で生成AIを使う場合はそもそも機密情報はプロンプトに入れないのが得策だ。たとえばChatGPTのオプトアウト機能には次のように致命的な盲点がある。

(前略)入力されたデータは30日間OpenAIのサーバーに保管された後に削除される仕組みであるため、第三者にデータが渡らないわけではありません。
『この一冊で全部わかるChatGPT & Copilotの教科書』p. 121

というわけで、本記事のプロンプト案でも機密情報は絶対に記載しないことを前提とする。

三つ目のズレた回答については、プロンプトエンジニアリング(うまく指示を出す技術)によってその影響が緩和される。望ましい翻訳を得るには、指示の出し方も内容も明確にしなければならない。指示の出し方については、マークダウン記法(記号による情報構造の整理)や役割指示(ロールプロンプト)、条件・禁止事項の記載などが有効。プロンプトエンジニアリングを考慮した、翻訳をイチから生成する際に効果的と思われるプロンプトを以下に示す。

翻訳をイチから生成するプロンプト案

注意:プロンプトに機密情報(個人を特定できる情報や非公開情報)は絶対に含めないこと

—————-ここから—————
あなたは(分野名を入力)翻訳におけるプロの英日翻訳者です。以下の{#背景情報}をもとに{#原文}を翻訳してください。ただし、{#条件}を必ず守ってください。

#背景情報
– 内容:(翻訳物のジャンルを入力)
– 読者:(読者を入力)
– 媒体:(媒体を入力)
– 目的:(翻訳の目的を入力)
– 方略:(望ましい翻訳方法(文体やトーン、表記・表現のルールなど)を入力)

#原文
(原文を入力)

#条件
– 背景情報の不足や根拠の不足により、翻訳に自信のない部分がある場合は教えてください
(その他付け加えたい条件があれば入力)
—————-ここまで—————

「背景情報」の項目については僭越ながら自著『脱・ナントナク訳 今日から使える実務翻訳の前準備シート』で紹介した内容を参考にしている。こういった翻訳に必要な基本情報を加えることで指示に具体性が増す。「条件」については案件ごとに変えてほしい。たとえば字幕翻訳の場合は「○○文字以内で出力すること」などと制約を加えるといい。

なお、同様の条件のもとで続けて生成AIに翻訳させる場合は、翻訳対象の原文を貼って「上記と同じ{#背景情報}と{#条件}で次の原文を翻訳してください」などと指示すればよい。生成AIはそれまでの出力内容も参照しているので、この程度の曖昧な指示でも問題なく理解できるだろう。

プロンプトに手を加える理由

なぜこのようにプロンプトをこしらえる必要があるのか。正直面倒だ。原文を入力して「日本語に翻訳して」と一言いえば事足りるのではないか。たしかに、実務翻訳に求められるのが原文をただ自然な英語に置き換えることであれば問題はないだろう。しかし、残念ながら実務翻訳の世界は甘くない。

(前略)そもそも実務翻訳が単に原文を日本語に置き換える作業ではなく、誰に向けて、どのような場面で、どのような目的で使われる文章に仕上げるかを徹底的に突き詰めなければならない仕事だからです。その性質上、案件にまつわる多様な背景情報を整理し、それに基づいて翻訳方略を立てることが欠かせません。
『脱・ナントナク訳 今日から使える実務翻訳の前準備シート』p.6

少しでも真剣に実務翻訳に向き合ったことがある人ならばわかる。現場では、たった一文を訳すのに多様な背景情報が必要になるのだ。プロの翻訳者はその膨大な情報を知識として脳に保存しているから素早く正確にまさにクライアントが求めているピンポイントの訳文をはじき出せる。

私の理解が正しければ、生成AIに品質の高い翻訳を出力させようとする場合、一文一語の翻訳単位でプロンプトを微妙に変更しなければならなくなる。ただし、今後生成AIの技術が向上して曖昧な情報から入力者の意図を上手く汲み取れるようになれば、上記のように細かな情報はいちいち入力しなくてもよくなるかもしれない。ただ、現状は2025年11月出版の次の書籍で示されているように「曖昧な指示からは曖昧な翻訳しか生まれない」のである。

生成AIは万能な存在のように思われがちですが、実際には「入力された情報」に基づいて処理を行う、極めて論理的なツールです。人間のように意図や背景を自然にくみ取ってくれるわけではありません。そのため、「何のために」「誰のために」「どのような制約や条件のもとで」情報を生成してほしいのかを、明確に整理して伝えなければなりません。曖昧な指示に対しては、やはり曖昧な応答しか返ってこないのです。
『その仕事、AIには無理です。』p. 61

おわりに

翻訳生成プロンプトの共有にあたり、最も関連の高そうな書籍『ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック』は読まないといけないと思ってはいたのですが、なんとなく答えを先に覗いてしまうようでおもしろくなくなってしまうので、今回は私のこれまでの翻訳経験といくつかの書籍を便りにしてプロンプトのテンプレートを考えてみました。

再三申し上げますが機密情報の漏洩にだけは細心の注意を払い、使ってみていただければうれしいです。

生成AIによる翻訳の品質が少しでも向上することを願って。

参考書籍

1. 『その仕事、AIには無理です。』髙木裕仁 著、日本経済新聞、2025年11月12日出版

その仕事、AIには
無理です。

2. 『この一冊で全部わかるChatGPT & Copilotの教科書』、中島大介 著、SB Creative、2024年8月8日出版

この一冊で全部わかる
ChatGPT & Copilotの教科書

3. 『脱・ナントナク訳 今日から使える実務翻訳の前準備シート』、自著、2025年9月発売

脱・ナントナク訳
今日から使える実務翻訳の
前準備シート